大正初期レーベル研究


 大正初期の宝塚のレコードは様々なレーベルから出されていています。主に機械式録音になりますが、ナショナルレコード(大阪蓄音器株式会社、大阪市)、 オリエントレコード(東洋蓄音器、京都市)、ニットーレコード(日東蓄音器、大阪市)、ニッポノホン(日本蓄音機、東京)、東京レコード(東京蓄音機、東京) から出ていました。

現在把握している公演の年度とレコードレーベルに関しては
  1. 最初期と思われるレコードは大正4年(1915年)11月にオリエントレコードから出ています。
  2. 大正6年(1917年)ごろのレコードはナショナルレコードで録音されたものがあるようです。
    ナショナルで出ているのが分かっているのは「ベニスの夕」「下界」があります。レコード番号からの類推でナショナルレコードで録音された可能性があるのは 桃色鸚鵡、夜の巷、桜大名、おもちゃ筥などです。
  3. 大正8年(1919年)には東京レコードから何枚か出ています。これは大阪の酒井公聲堂が録音して東京蓄音器から発売されているものと思われます。 歌劇誌大正8年4月号によると大正8年3月5日に神楽狐、啞女房、クレオパトラ、花咲爺が録音されたということです。
  4. 大正9年(1920年)ごろからニットーレコードから出ています。
  5. 大正10年(1921年)ごろからニッポノホンから出ています。
 このあたりの情報に関して、宝塚歌劇70周年の時(1984年)に出されたLP15枚組の宝塚大全集というレコードセットがあるのですが、そのレコードについている小冊子に 宝塚レコードのディスコグラフィーが載っています。SP盤レコードに関してはコロンビアおよびポリドールレーベルは網羅されていますが、それ以前、特に初期のSP盤に 関しては非常に不完全です。ナショナル、オリエント、ニットー、ニッポノホン、東京レコードはリストにないものを数多く入手しました。つまり、宝塚歌劇団も この時代の記録が乏しく、全てを把握しているわけではないのです。


オリエントレコード について

 東洋蓄音器商会は明治40年に京都に設立され、複写盤を製造していました。当初の片面盤の時代のレーベルは赤地に白文字もしくは 黒地に金文字でORIENT RECORDで会社名はTHE ORIENTAL PHONOGRAPH MFG. CO.,となっていました。片面盤と両面盤があり もちろん片面盤の方が製造が古いと思われます。

 大正元年に東洋蓄音器株式会社となり盤を引き続き製造しながら、 自主録音を開始しています。自主録音盤は大正2年から発売されているようです。手元にある一番古いと思われる自主録音盤のレーベルは 大正3年11月発売のもので銀色地に金文字でORIENT RECORDで、会社名はTHE ORIENTAL PHONOGRAPH MFG. CO.,となっています。 大正4年11月発売の盤ではレーベルは銀色地に金文字でORIENT RECORDで会社名は東洋蓄音器株式会社になっています。 一方、大正3年12月に京都興業商会が設立され、複写盤をウグイス、からとりレーベルで、正規盤を八千代レーベルで製造していましたが、 大正5年2月に社名を東洋蓄音器合資会社に変更しました。 東洋蓄音器株式会社は斜陽になり、大正5年3月に元京都興業商会である東洋蓄音器合資会社に社屋や生産設備を賃貸して生産を委託しました。 大正6年7月には東洋蓄音器株式会社は解散し、東洋蓄音器合資会社に吸収合併されました。 このように複雑な過程を経て、東洋蓄音器商会→東洋蓄音器株式会社→東洋蓄音器合資会社と変わってきました。 東洋蓄音器合資会社は順調に業績を伸ばし、大正6年6月にはKASUGA RECORDレーベルで大阪蓄音器(ナショナルレコード)の複写盤を、 YOSHINO RECORDレーベルで日本蓄音機(ニッポノホン)の複写盤を出していた大阪の声光商会を買収しました。 大正7年3月にはナショナルレコードの大阪蓄音器株式会社と合併しました。 1919年(大正8年)12月に日本蓄音器商会(後のコロムビア)に吸収合併されました。

複写盤レーベル
(1)
背景色
文字色
レーベル名ORIENT RECORD
商標TRADE MARK
中央RECORDED IN JAPAN
題名
文字綴り左→右
社名THE ORIENTAL PHONOGRAPH MFG. CO.,
両面・片面片面
分類タイプ4
(2)
背景色
文字色
レーベル名ORIENT RECORD
商標登録商標
中央RECORDED IN JAPAN
題名
文字綴り右→左
社名THE ORIENTAL PHONOGRAPH MFG. CO.,
両面・片面片面および両面
分類 
 
自主制作盤レーベル
(3)
背景色
文字色
レーベル名ORIENT RECORD
商標登録商標
中央RECORDED IN JAPAN
題名
文字綴り右→左
社名THE ORIENTAL PHONOGRAPH MFG. CO.,
両面・片面片面および両面
分類タイプ1
(4)
背景色
文字色
レーベル名ORIENT RECORD
商標登録商標
中央RECORDED IN JAPAN
題名
文字綴り右→左
社名THE ORIENTAL PHONOGRAPH MFG. CO.,
両面・片面両面
分類 
(5)
背景色
文字色
レーベル名ORIENT RECORD
商標登録商標
中央RECORDED IN JAPAN
題名
文字綴り右→左
社名THE ORIENTAL PHONOGRAPH MFG. CO.,
分類タイプ2-d
(6)
背景色
文字色
レーベル名オリエント レコード
商標登録商標
中央ORIENT RECORD
題名
文字綴り右→左
社名東洋蓄音器株式会社製
分類 
(7)
背景色ベージュ
文字色
レーベル名オリエント レコード
商標登録商標
中央ORIENT RECORD
題名
文字綴り右→左
社名東洋蓄音器株式会社製
分類タイプ2-a
(8)
背景色ベージュ
文字色
レーベル名オリエント レコード
商標登録商標
中央ORIENT RECORD
題名
文字綴り右→左
社名東洋蓄音器合資会社製
分類タイプ2-b
(9)
背景色
文字色
レーベル名オリエント レコード
商標登録商標
中央ORIENT RECORD
題名
文字綴り右→左
社名東洋蓄音器合資会社製
分類タイプ2-c
(10)
背景色多色(地球儀)
文字色
レーベル名オリエント レコード
商標登録商標
中央ORIENT RECORD
題名
文字綴り右→左
社名東洋蓄音器合資会社製
分類タイプ3
(11)
背景色多色(地球儀)
文字色
レーベル名オリエント レコード
商標登録商標
中央ORIENT RECORD
題名
文字綴り右→左
社名株式会社日本蓄音器商会製
分類 
(12)
背景色黄色・黒
文字色
レーベル名ORIENT RECORD
商標登録商標
中央オリエントレコード(金文字)
題名
文字綴り右→左
社名ORIENT FACTORY,
NIPPONOPHONE CO., LTD.
分類タイプ5-a
(13)
背景色黄色・黒
文字色
レーベル名ORIENT RECORD
商標登録商標
中央オリエントレコード(白文字)
題名
文字綴り右→左
社名ORIENT FACTORY,
NIPPONOPHONE CO., LTD.
分類タイプ5-b
(14)
背景色黄色・黒
文字色
レーベル名ORIENT RECORD
商標登録商標
中央オリエントレコード(白文字)
題名
文字綴り右→左
社名NIPPONOPHONE CO., LTD.
分類タイプ5-c
(15)
背景色アズキ色
文字色
レーベル名ORIENT RECORD
商標登録商標
中央オリエントレコード
題名
文字綴り右→左
社名ORIENT FACTORY,
NIPPONOPHONE CO., LTD.
分類タイプ6
(16)
背景色アズキ色
文字色
レーベル名ORIENT RECORD
商標登録商標
中央オリエントレコード
題名
文字綴り右→左
社名NIPPONOPHONE CO., LTD.
分類 
(17)
背景色
文字色
レーベル名ORIENT
商標登録商標
中央オリエントレコード
題名
文字綴り右→左
社名MADE IN JAPAN
分類タイプ8-a
(18)
背景色
文字色
レーベル名ORIENT
商標登録商標
中央電気吹込
オリエントレコード
題名
文字綴り右→左
社名MADE IN JAPAN
分類タイプ8-b
(19)
背景色
文字色
レーベル名ORIENT
商標登録商標
中央電気吹込
オリエントレコード
題名
文字綴り右→左
社名コロムビア蓄音器株式会社製造
MADE IN JAPAN
分類タイプ8-c
 
分類は「レコードコレクターズ」誌1991年8月号p118-124 岡田則夫著 続・蒐集奇談 に記載されている分類である。 分類の欄が空欄になっているのは岡田則夫の分類には記載されていないタイプである。

東洋蓄音器商会のその他のレーベル

MERRY (20)
背景色
文字色
リムレーベルMERRY RECORD
商標TRADE MARK
中央RECORDED IN JAPAN
文字綴り左→右
社名THE ORIENTAL PHONOGRAPH MFG. CO.,
両面・片面片面
(21)
背景色
文字色
リムレーベルMERRY RECORD
商標TRADE MARK
中央RECORDED IN JAPAN
文字綴り左→右
社名THE ORIENTAL PHONOGRAPH MFG. CO.,
両面・片面片面
SUNRISE (22)
背景色
文字色
リムレーベルSUNRISE RECORD
商標TRADE MARK
中央RECORDED IN JAPAN
文字綴り左→右
社名THE ORIENTAL PHONOGRAPH MFG. CO.,
両面・片面片面


 さて、オリエントレコードのレーベルの変遷の順番ですが、今回はレーベルのデザインの各部分の移り変わりに注目して整理してみました。

 一番古いのは複写盤のみを製造していた時代の(1)、(20)、(21)、(22)と 思われます。その特徴は①リム部分のレーベルが英語表記であること。(ORIENT RECORD、MERRY RECORD、SUNRISE RECORD) ②中央にRECORDED IN JAPANと書いてある。③商標はTRADE MARKと英語表記である。④社名はTHE ORIENTAL PHONOGRAPH MFG. CO., である。④文字が左→右に綴られている。⑤最も古い形式である片面盤が存在すること。となります。現時点で手元にある盤は全て片面盤です。

 次に出たのはおそらく複写盤の(2)のレーベルと思われます。(1)と違うのはスピンドル穴の周りにレコードのような模様が入ったことと 商標がTRADE MARKから登録商標と日本語表記になっていて、文字が右→左に綴られているところです。ただ、(2)と(3)のどちらが先に出たのかというのは 検証不能です。(2)には片面盤と両面盤が存在しています。 今回はレーベルの繋がりということで、(2)を先に並べています。

 自主制作盤の(3)は(2)の背景色を黒に変更して、レコードのような模様は無くして文字をすべて金文字にしています。(3)にも片面盤があるとのことです。 参考文献3)自主制作盤なので禁複製の文字が入っています。複写盤にこの文字を入れたら笑い話ですね。

 その次のレーベルについてははっきりと書いてある文献は見当たりません。(3)のレーベルに一番近いのは(4)と思われます。 違いは背景色が黒から銀色に変わり、ラクダの絵が大きくなっています。文字色がすべて金というのも同じです。このレーベルは 「レコード・コレクターズ」誌1990年8月号の岡田則夫氏の記事には掲載されていません。

 (4)のレーベルと(5)のレーベルの差は題名が金文字から黒字に変わっているところです。

 (6)のレーベルは大きく変更されました。背景色は銀色で題名は黒字でそれ以外は金文字あるところは(5)と同じですが、 ①リム部分のレーベルがORIENT RECORDからカタカナのオリエントレコードに変わった。②中央のRECORDED IN JAPANが ORIENT RECORDに変わった。③社名がTHE ORIENTAL PHONOGRAPH MFG. CO.,から東洋蓄音器株式会社に変わった。 が挙げられます。このレーベル以降の入手は比較的容易で、逆に(4)や(5)のタイプのレーベルは入手が困難です。

 (7)のレーベルは(6)と比べると、①背景色が銀からベージュに変わった。②題名が黒字から金文字に変わった点が挙げられます。

 (8)のレーベルは(7)と比べて変わったところは社名が東洋蓄音器株式会社製から東洋蓄音器合資会社製になったところです。

 (9)のレーベルは(8)に比べると背景色がベージュから赤(朱色)に変更になっていますが、それ以外の部分は変更されていません。 このレーベルから以降は、白熊レーベルのナショナルレコード(大阪蓄音器)で録音された盤が見られるようになります。大正6年6月前後 ではないかと推定されます。(8)のレーベルから合資会社の後に算用数字が記載されていますが、何を意味するのか不明です。

 (9)から(10)への変化は大きく、背景色が単色ではなく、白熊のナショナルレコードの地球儀の上にラクダが乗っている図案に なりました。これは明らかにナショナルレコードとの合併を意味していると思われます。(9)と(10)の両方でナショナルレコードの 録音が見られることから、(9)と(10)のどちらが早いかとの話になりますが、次の(11)のレーベルは株式会社日本蓄音器商会製とあり、 大正8年に日本蓄音器に合併されてからの物もあるということで、(9)→(10)→(11)の順番が妥当と思われます。

 (11)は(10)の東洋蓄音器合資会社製から株式会社日本蓄音器商会製に変わっているだけです。ただ、東洋蓄音器合資会社製のところに 見られた前後の算用数字はなくなっています。

 日本蓄音器商会との合併直後は地球儀のレーベルに社名変更で済ませていたようですが、背景色が黄色と黒の新レーベルが登場 します。(12)(13)(14)が黄色と黒のレーベルですが、その順番ははっきりしませんが、レコード・コレクターズ誌の岡田則夫氏の 分類の順に並べておきます。(12)は(13)(14)と異なり中央のレーベル表示の色が金文字になっていると、センタースピンドルの穴の 周りにも金色の縁取りがあること、地球儀にラクダのマークの背景が赤になっています。市場に出ているのは(13)が一番多いように 思われます。

 次に、黄色と黒の背景色のレーベルをそのままに背景色を赤(アズキ色)に変えたレーベルが登場します。(15)と(16)ですが、 どちらが早いかは分かりません。両者の差は社名表記に「ORIENT FACTORY」が入っているかどうかです。(13)と(14)の差と同じです。 レコード・コレクターズ誌の記事には(16)のレーベルは登場せず、数は少ないと思われます。

 オリエントレーベルとして最終の形はコロムビアに合併してからの(17)(18)(19)になります。意匠はコロムビアの形式に近くなります。 (17)は機械式吹き込みの盤で、レコード番号は旧のオリエントの番号を引き継いでいるようです。(18)(19)は電気吹き込みになってからの盤です。 (19)にはコロムビア蓄音器株式会社製造と記載されるようになりました。

オリエントレーベルの変遷一覧表

工事中

 

参考文献

  1. 「レコードコレクターズ」誌 1991年8月号p102-103,118-124 岡田則夫著 続・蒐集奇談
  2. 科学研究費助成事業 研究成果報告書/東洋蓄音器(オリエントレコード)の社史調査とディスコグラフィの作成
  3. 東洋蓄音器( オリエントレコード)の社史調査とディスコグラフィの作成





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